日本語を話し始めた頃の幼児は「お母さん」が「お母たん」になったり、正しい発音ができないことがある。これを赤ちゃん言葉、幼児語と言う。普通の子どもはどのようにして日本語を話すようになるのであろうか。
乳児は生れた直後から微細な音の違いを聞き分けられ、世界中のどの言語にも適応できる音韻知覚能力がある。ところが、育ってくるうちに、母音は生後6か月、子音は生後10か月には、母国語の音声のみが聞き分け可能となる。
音声は体外に吐き出す空気が声帯を振動して作られる。これが口腔、舌、唇を通過するときに、唇や舌の動きで、さまざまな固有の音声が作られる。音声の発達は、先ず生後2か月頃になると、喉の奥でクーと鳴るようなクーイングが聞かれる。
2~6か月頃の乳児はなんでも口へもって行きしゃぶるが、これには二つの意味が考えられる。いろいろの物の硬さや、味、匂いなどの性状の違いを覚えることと、食物を食べるのに必要な舌の動きと、種々の音を出すのに必要な舌の動きを練習しているのではないかとも考えられる。その後、過渡期の喃語が現れ、生後11か月頃になると「ババババ」「バダ」「バブバブ」の音が反復して表出されるようになる。
言葉の発達は耳が聞こえること、知能や社会性が正常であることが条件である。
お誕生前後より初語を話し始める。言葉が話せるようになると、「さかな」が「たかな」、「くすり」が「くつり」、「はさみ」が「あさみ」、「さかな」が「たかな」、「そら」が「とら」、「つくえ」が「ちゅくえ」などの幼児語が出てくる。サ行がタ行になってしまうとか、カ行が全く発音できなくて「たちつてと」になってしまうとか、ラ行の発音が一番難しい。これらの幼児語は大人が直さなくても、周囲が正しい言葉を話していれば、子ども自身が修正し、小学校に入学する頃には正しい言葉を話すようになる。
これらの幼児語は舌とか、口とか唇の動かし方が未熟であるというだけで原因が良くわからない。これらを機能性構音障害という。唇顎口蓋裂、難聴、舌小帯短縮症など原因が明らかなものを器質性構音障害という。脳障害のために舌や唇や喉の運動がスムーズにいかないものを運動性構音障害という。それぞれの特別な治療が必要である。わが国では幼児語は舌小帯短縮症、いじめ、欧米への留学などの特別なことが無い限り問題にされることはあまりない。
機能を獲得する言葉の発達で、どの言語でも発音できる音韻知覚能力を失って母国語が話せるようになるのは興味あることである。
(前川喜平)